No-210

バッテリードライブ多機能DCプリアンプをStudyする




・No−210のMCイコライザーは、1985年から25年続いた理想NFBイコライザーの歴史に終わりを告げるものなのだろうか。

「オーディオDCアンプ製作のすべて」にも記載されているとおり、理想NFBイコライザーを実現するためには、NFBを掛けない状態におけるアンプの出力インピーダンスをアンプの負荷以上に高いものにする必要がある。MCイコライザーの場合、対象となる負荷とはNFB回路のインピーダンスであり、したがってこの場合低域で820kΩにもなる。

・そのため、これまでのMCイコライザーでは、2段目差動アンプにはそもそも出力インピーダンスの高い2SJ103を起用するなり、カスコード回路を付加するなどするとともに、終段もエミッタ(ソース)抵抗には数kΩのものを起用して出力インピーダンスを高めていた訳である。

・ところが、No−210の場合はそれらの方策が採用されておらず、その設定はまるでこれまでのフラットアンプのものと見紛うほどだ。これでは、とてもではないが理想NFBイコライザーになっているはずがないと一見して思うのだが、その辺、LTSpiceで占ってみると、はたして右下の通りである。

・いつもなら低域は10Hzまでしか観ないのだが、今回はあえて0.001Hzまで観ている。オープンゲイン(赤)はDCから400Hz程度までは一定で84dB程度であり、高域遮断周波数、すなわちfcは4kHz程度で、それ以上の周波数では20dB/decで利得が低下している。

・オープンゲイン(赤)自体がクローズドゲイン(緑)が示すようなRIAA特性になるのが理想NFBイコライザーの特徴であるから、このオープンゲインの特性を観ただけで、これは理想NFBイコライザーではないことが明らか。

・理想NFBイコライザーであれば、ループゲイン(青)≒NFB量が可聴帯域でほぼ一定になり、結果、可聴帯域におけるNFBの位相回転が0°になるというのが、理想NFBイコライザーの最大の売りなのだが、右を観ると、ループゲインは可聴帯域で一定どころか、低域で少なく高域で多い逆RIAA特性になっている。

これは、「オーディオDCアンプ製作のすべて」で“恐怖の位相回転が生じてしまい、正しいNFBがかからない”と記載されている電圧出力アンプの場合の特性である。この点ではNo−210のイコライザーは、第1世代の、それも1979年9月のNo−35でイコライザー分割型になる前の、最初期型に戻ったのである。
No−210 EQ AOCなし
そうであるとすると、No−210のイコライザーは、理想NFBイコライザーを実現するために不可欠な、次段へのハイ・インピーダンスでの信号の引き渡しという条件を守る必要がなくなる。

・第1世代の時のように、50kΩのボリュームでその出力を受けても、何ら問題がない。

その辺のところをLTSpiceで占ってみると、はたして右の通りである。

・負荷が低くなって、オープンゲイン(赤)、従ってループゲイン(青)も1〜2dB程度減ったが、それ以外は変化がない。これもNo−210のイコライザーが理想NFBイコライザーでないことを如実に示しているところであるが、これならこのイコライザーの出力を50kΩで受けても何ら問題がない。

・なお、これには、オープンゲインの位相(赤の点線)、ループゲインの位相(青の点線)、そしてクローズドゲインの位相(緑の点線)も示したが、NFB信号の位相であるループゲインの位相(青の点線)は、可聴帯域で0°〜60°の進み位相である。本当の理想NFBイコライザーであれば、それが可聴帯域内でずっと0°になる。要するにNo−210EQでは「恐怖の位相回転」が生じているのである。
・さて、No−210EQには、第1世代にはなかったAOCというDCサーボ回路が付与されている。新機軸だ。

・LTSpiceで占うそのゲイン−周波数特性は右下のように一見極めて不思議なものになる。

・オープンゲイン(赤)は、1kHzで84dBあるものが200Hzぐらいから下で低下を始め、1Hzで44dB、0.1Hzで24dBまで下がってしまい、DC領域では17dBとなっている。また、ループゲイン(青)も1kHzで42dB程度あるものが10Hzでは0dB、1Hzでは−20dB、0.1Hzでは−40dBとなり、DC領域で−47dBである。

・が、よく見ると気付く。

・まず、DC領域から10Hzまでに限れば、オープンゲイン(赤)とループゲイン(青)は、64dBの差を保ったままの平行移動であることで、これはAOCがない上の場合のオープンゲイン(赤)とループゲイン(青)の関係と何も変わらないことである。10Hz以上でその間の差が縮まるが、それはAOCがない場合も同じであり、結論的には全ての帯域でAOCがない場合もAOCがある場合もオープンゲインとループゲインの関係に変化はない。

・次に、オープンゲイン(赤)のDC領域から100Hz程度までの特性は、AOCの入り口にあるCRフィルタ、fc=159/(1640k*2.2u)=0.044Hzの6dBCRハイカットフィルタの特性の裏返し特性であるということである。

・これらから、次のこと推測される。

・一つは、この場合のオープンゲインの低域での減少特性は、その演算式にAOCの効果要素を含んでいないための見かけ上のものではないか、そして、それらの200Hz程度からの低下は、AOCによるアクティブNFBの効果であり、そのAOCがない場合との差分がまさにAOCによるアクティブNFBの量ではないかということある。
すなわち、AOCにより、DC領域ではAOCが無い場合のオープンゲイン84dB−AOCがある場合の見かけ上のオープンゲイン17dB=67dBのNFBが、0.1Hzでは84−24=60dB、1Hzでは84−44=40dB、10Hzでは84−64=20dBのAOCによるアクティブNFBが掛かり、100HzでAOCの利得が0となって、もともとの84dBのオープンゲインに帰結するということである。

・二つは、ループゲインが10Hzで0dBとなり、それ以下の周波数ではマイナスの利得となっているが、これも見かけ上のものに過ぎないのではないか、ということである。
No−210 EQ AOCあり
・この点を考えるため、No−210EQをAOCを中心に見たものが右である。AOCと本体はフォールデッドカスコード回路を構成している訳だ。No−210では、これが反転アンプとして使われる訳だが、ここでは非反転アンプとしての特性を観る。OPアンプは、反転動作と非反転動作で動作内容に何も違いはないので、これで分かる。

・結果、オープンゲイン(赤)は低域で70dB。ループゲイン(青)とクローズドゲイン(緑)で明らかなように、帰還回路のCRフィルタの特性どおり、DC領域では100%のNFBが掛かることによりクローズドゲインは0dBであり、そのfc=0.044HzでNFBが3dB減少して、クローズドゲインが3dBとなり、fc以降は20dB/decでNFB量が減ることにより、クローズドゲインは20dB/decで増加する。ループゲイン≒NFB量は100Hz程度で0dBに沈み、そのため、そのポイント以上ではクローズドゲイン=オープンゲインとなる。

・で、ここでのループゲイン(青)≒NFB量が、この上で観たAOCによるNFBの周波数特性ということになるのだが、全くぴったりである。したがって、上の一つ目の推測は事実と考えて良さそうだ。すなわち、No−210EQでは、あまり低くないAOC入力のフィルタ設定により、DC領域だけではなく、百Hz以下の可聴帯域でもAOCによる低域限定の選択的NFBが掛かるのである。

・が、AOCを付加した場合のループゲインも見かけ上のものとした二つ目の推測は誤りのようだ。ループゲインの方は、見かけ上のものではなく事実を表している。何故なら、AOCによるNFBが単体でこのような量と周波数特性であるならば、クローズドゲインとの関係(オープンゲイン−NFB=クローズドゲイン)からして、DC領域から10Hz程度まではAOCによるNFBだけが効いていると考えなければ理屈が合わない。すなわち、DC領域ではオープンゲイン84dB−AOCのNFBの67dB(70dBとの3dB差は誤差)=17dBのクローズドゲインになっていると考える以外にない。で、AOCを付加した場合のループゲインを観るとちょうど10Hzで0dBに沈んでいる。すなわちこれは事実なのだ。
よって、ループゲインが0dBに沈むポイント以下の周波数ではAOCによるNFBだけが効くことになる。一方、ループゲインが0dBを超える10Hz以上では、これによるNFBとAOCによるNFBが加算されて効く。AOCによるNFBは100Hz程度まで効いているから、10Hzから100Hzの領域では、AOCによるNFBがオープンゲインを200Hz程度からDC領域へ見かけ上低下させるものとして効き、ループゲインの方はクローズドゲインのRIAA特性を作り出すものとして効いている。そして、100Hz程度以上ではAOCによるNFBはなくなるので、ループゲイン≒EQ素子経由のNFBだけが掛かる。
No−210 AOC
・要するに、シミュレーターの示すAOC付加時のオープンゲインは、AOCが無い場合のオープンゲインに対応する、AOCによるNFBが掛かった後のクローズドゲインなのである。そして、このクローズドゲインをオープンゲインとして、EQ素子経由のNFBが掛り、結果、シミュレータが示すように、20Hz程度をピークとして低域で下降し、20Hz程度以上ではRIAAカーブで下降する、最終的なクローズドゲインになるという訳だ。

・ということであれば、AOCを付加した場合のループゲインの位相を観ることに意味がある。AOCを付加した場合における、LTSpiceの占うループゲインの姿が事実らしいとなれば、その占う位相の状況もまた事実ではないかと考えられるからである。

・それが右で、ループゲインの位相は青の点線であるが、それは可聴帯域で0°〜118°の進み位相である。AOCがない場合に比較すると最大進み量は60°も増え、理想NFBイコライザーからはますます遠ざかっている。

・もし、No−210EQの音が従前の理想NFBイコライザーのEQの音よりも良いということになった場合、理想NFBイコライザーとは何だったのか?ということにますますなるなぁ。(^^;
   
・と、LTSpiceで遊んでいるうちに、No−210のイコライザー部の基板が出来上がってきた。
・100Hz程度という可聴帯域から効いているAOCのフィルタコンデンサーには良いものを使うのが吉だろう。なので、この際、近頃出番のないいにしえの双信V2A4端子型をジャンクボックスから引き上げて使うことにする。
・回路はこう。

・実に簡単そうだが、実はそうでもないのがこの世の常である。このアンプを私のような初心者でも問題なく作るためには、勘所が示されないといけない。それは本体初段とAOC回路の定電流回路の動作電流の設定である。が、No−210の記事にはその辺何も書かれていない。

・が、
記事の回路図に記載された電圧値表記から推測すると2.4mAか。

・なので、まず複数の2SK117BLのIdssを測る。Idssはたまたま測った中でも7mAから12mAとかなりばらつく。が、Idss=9mAのものが上手く4個見つかった。4個でステレオ分である。Idssの同じものが4個あるとそのうち1個で調整すれば他の3個も同じ設定で良いので都合が良い。

・で、そのうちの1個で実際に回路図のように定電流回路を仮り組みし、バッテリー電源を使ってその電流値を実測する。と、150Ωで2.61mA、180Ωで2.35mA、200Ωで2.17mAとなった。ので、目的電流値に一番近い電流値となる180Ωを採用した。結果的にNo−210EQオリジナルとこの部分は同じになった。
・AOCの2SK170の方は動作電流が1.2mA程度であるから特にBLランクである必要はなく、Idssが2.5mA以上あれば問題はないので、2SK170ならどのランクでも良い。手持ちにもGRランクしかなかったが、Idss=3.5mAのものが上手く4個見つかったのでそれらを採用。

・で、全体を組んでみると、勘所を押さえたためか問題なく動いた。出力のオフセットの調整では、AOC入力のフィルタの時定数のためその動作にややタイムラグが生じるため、針式テスターで見るとガクン、ガクンという感じで大きく行きつ戻りつをする。ので最初はびっくりするが、それで正常なので安心して調整する。逆にここでガクン、ガクンという感じで大きく行きつ戻りつをする動作にならない場合は、どこかが間違っていると思わないといけない。

・で
、調整後は本当にぴたりと0Vに張り付いて微動だにしない状況になる。

・次に、終段プラス側の39Ωの両端電圧を測って、オームの法則でその電流値を算出すると4.17mAであった、ここは5mAから10mAにすべしとある。そこまで至らないのは、最初に本体初段とAOCの定電流回路の電流を設定したときにそれが2.4mAより少ないものとなったからである。想定内。なので、今度は2段目差動アンプのエミッタ側の共通エミッタ抵抗160Ωを調整する。終段のIdを増やすためにはこれをやや小さくすれば良い。のでこれを130Ωに交換すると上手くId=6.67mAとなった。調整作業完了。

ついでに言えば、終段のIdはプラス側とマイナス側では2段目の動作電流分マイナス側が多いので、Idは終段プラス側で測って調整するのが吉。また、当たり前だが本体の2段目とAOCの接続部分のXとYを反対につながないように注意。
・後はケーシングである。

・今回はMCイコライザーのみでケーシングすることとし、ケースはタカチのOS49−16−23BBとした。今回は小さく可愛いく。
・あっという間に終了。
・で、問題はその音だが、

・実に良い音である。(^^) 眼鏡を掛けて良く見えるという感じでなく、そもそも混変調の感じがしない裸眼で良く見えるといった感じの至極普通の音がする。敢えて言うならば極低域が質感良くグッと伸びている。ここが最大の特徴かなぁ。ここが良く制動されるが故に全域で一層クリアさと粒立ちがアップする、といった感じ。だから、低域に38cmウーハーを使用したシステムなど、低域の良く伸びたシステムで効果がより大きいかもしれない。

・これがバッテリーの効果だろうか。いや、もしかするとAOCの効果ではなかろうか。AOCによりDC領域では67dBのNFBが、0.1Hzでは60dB、1Hzでは40dB、10Hzで20dBのアクティブNFBが掛かっている。これが、この低域の良質な質感を生んでいるような気がする。要はNFBは位相より量なのか。あるいはカンチレバーの余計な動きによる混変調が減るためか。

・と、No−210はかなり素晴らしい。が、私の持っている他のK式(もどき)MCプリアンプ達も生き残るなぁ。(^^;

・氏の感想は単体に対するものとしてはいつも正しいと思う。今回もそうだと思う。が、それが毎度従前機に対するものであるとしたら逆にその評価の信頼性は失われるだろう。従前機に対する感想も素晴らしいものだったからである。

・といったところで。(^^;



(2010年10月2日)







(その後)



・K先生はNo−215でFET1石無帰還アンプの世界に踏み込まれた。過去40年のK式の歴史とその教義からすれば正に革命的な出来事である。

・9月号の“本機の音”でその革命的な音が大絶賛されるものと思われるが、結局40年掛けて出来上がってきた音がここに来て2SK97の無帰還1石アンプに凌駕されてしまうのかと思うと何とも言いようもないものを感じるなぁ。。。

・な〜んて。(^^;

・といった思いのせいかどうかは定かでないが、No−210のイコライザー部を改造してみる気になったのだった。

・それはK教の根本教義に反するかもなのでよい子はやってはいけない内容だ。(爆)(^^;

・が、ちょいちょいと改造作業をしてしまった回路はこう。
・要すれば、No−210イコライザーを反転動作にしたものである。

・K式教義ではDL−103の微弱な発電信号のロスは音を悪くするとの理由でその出力はハイインピーダンスで受けることになっている。ためか、このように入力インピーダンスが低くなる(この場合560Ω)反転動作のイコライザーはかつて一度も登場していない。

・このような反転動作のMCイコライザーの例としては、MJ2004年7月号に窪田氏が発表されたものがある。ので、こうすると窪田式になってしまうか?(爆)

・は、どうでもいいのだが、K式教義の発電信号のロスの件は、信号をFET入力で抵抗シャントで受けた場合、大事な音声信号が抵抗に流れてアンプ側への伝達ロスになるという、まぁ、分かったような分からないようなものなのだが、このような反転動作であればカートリッジの微弱な発電信号も電流としてアンプ側に100%伝達されるので案外良いかも?。
・一応その動作をLTSpiceで占っておく。

・その利得−周波数特性だが、結果が右下で、赤がオープンゲイン、緑がクローズドゲイン、青がループゲインで、点線はそれぞれの位相である。

・上の方にある非反転動作の場合と比較すると、やや違いはあるのだが基本的には全く同じである。AOCによる強力なDCサーボが掛かるのも同じ。

・で、実際にMCカートリッジを繋いだ実動作では、入力のR10にMCカートリッジのインピーダンスがシリーズとなるので、そのインピーダンスの影響で、右の場合よりクローズドゲインは小さくなる。

・また、MCカートリッジのインピーダンス−周波数特性が平坦でない場合、それは周波数によってゲイン差が生じるということなので結局RIAA偏差となってしまう。

・が、もとよりMCカートリッジの一定ロードでの起電力の周波数特性とて完全に平坦なものではないし、インピーダンス−周波数特性の影響がどうかは実際に聴いてみないことには分からない。
・ので、早速聴いてみる。
・んっ。

・ふふふふ。

・良いんじゃないの。

・なんだがカートリッジが電流を流せるようになって生き返ったように伸び伸びしている?とても良さ気。
・が、それは勘違いかも知れないし、そもそもよい子はまねをしてはいけません。(爆)
・ここで、全く関係ないのだが、番外でちょっと近況。(^^;

・使っていた携帯電話が故障してしまったのでやむなく入手したのがこれ。

・まぁ、そろそろ“らくらくフォン”でいいんじゃないかなぁ。。。とも思ったのだが、結論としては超小型コンピューター with Telephone であるスマートフォンになってしまった。

・NAVIになったり、ブラウザになったり、Gameが出来たりと、全くにして超小型コンピューターなのだが、Wi-FiでLANにも繋がり、その結果右のように我が家のPCオーディオのリモコンにもなるのであった。

・アプリの使用頻度からしたら、電話を買ったつもりが実は高価なリモコンを買ったようなもの?(爆)(^^;








(2011年7月24日)







(その後の2:No−215EQになる)



・9月号の”本機の音”はいつにも増して強烈。

・その音はこれまでオーディオでは体験したことがないもので、・・・本機の使命はレコード再生に命を与えることだ。と来た。

・これまでの金田式イコライザーアンプではレコード再生に命を与えられなかったのか?とも思ったのだが、やはり抗しきれず、急遽我がNo−210イコライザーアンプをNo−215イコライザーアンプに変身させてしまった。(爆)
・4PLに2SK97をギリギリ収める。2SK97の両ドレインを直接シェルピンに半田付けしたらそれで十分に安定したので、2SK97はシェルに貼り付けていない。
・基板は従前のまま、あり合わせの部品で215化。
・回路はこう。手持ちの都合からオリジナルとはちょっと違うところがある。
・で、調整は問題もなく一発で動いた。(^^)

・最初電源オンで出力電圧が電源電圧程に達し、1秒後ぐらいにテスターの針が急に0Vになって、ありゃテスターのヒューズが飛んだか?と思ったのだが、電圧測定でそれはあるまいと良く良く観察するとそれはSAOCが働くまでの過渡期状態が終わって出力が0Vに急激に吸い込まれたためだったのである。なるほどSAOCの入り口の時定数はとても大きい。(爆)
・で、その音だが、

・一聴確かにメリハリの利いた明瞭闊達な音。エネルギーに満ちて緻密、繊細。

・う〜ん。。。後はいろいろと聴いてから。(爆)(^^;




(2011年8月12日)






(その後の3:No−215EQになるの続き)



・我がNo−128?EQ、No−170EQと比較試聴。

・ピン直結のNo−215EQと公平な条件とするため、これらで鳴らす103もカートリッジからシェルピンまでの配線を2497の7本撚り線直結にする。かつてのK式の正しい教義では、さらにシェルのアーム取り付け部分に穴を明け、カートリッジからEQアンプ入力までを直結するものだったのだが、今は先生もそこまではやっておられないのかな?
・早速、結論。

・カートリッジとシェルピン間の2497撚り線による直結化も案外効果が高い。結果、我がNo−128?EQもNo−170EQもさらに満足のいく音となり、No−215EQにかなり肉薄した。

・が、続いてNo−215EQを聴くとやはり唖然とする。

・何もかも一枚上手だ。

・一音一音を構成する音の要素が多く、エネルギー感に満ち、力強く、良く分離している。結果、音と空間の3次元的な実体感、立体感が明確で、録音によってはぞくぞくする臨場感が得られ、鳥肌が立ってしまうことがある。要するにすっかり生々しいのだ。

・で、これはレコード再生における革命か?

・は、置いておいて、PCオーディオのハイビット・ハイサンプリング音源と比較してみる。ものは88.2kHz/24bit化された“CANTATE DOMINO”

・ふふふふ。。。なんと、パチパチノイズの発生を除けばNo−215EQの勝ちだわなぁ。

・空間の透明度とオルガン、コーラスの実体感でNo−215EQの方が優り、より聴く楽しみが大きい。

・多分、PC音源の方はデジタル化の過程のノイズ処理などで録音の精気をも多少失っているのではあるまいかと思える結果だ。

・ネットワークオーディオ大家の角田氏がNo−215を聴いてこれを作りたくなるのもむべなるかなだわなぁ。
・ところで、近頃の「Net Audio」誌にユキ・アリマサ氏のピアノソロ音源が付録として付いてくる。

・2曲のみのFLACファイルだが、それぞれ44.1kHz/16bit、96kHz/24bit、192kHz/24bitの三つのフォーマットでそれらを聴くことが出来る。勿論最新録音なので、旧譜アナログ音源のハイビット・ハイサンプリング化とは違い、録音自体が192kHz/24bitで行われたものだ。

・これを聴くと44.1kHz/16bitも勿論聴けないことはなく、一聴カチッと締まって力強くて明快なのだが、残念ながら聴き続ける程に何となく頭が痛くなってしまうような感じがする。のは、96kHz/24bit、192kHz/24bitで聴くと感じる甘さ、心地よさが失われている、あるいはそれらが感じられないためだということが良く分かる。
・CDの44.1kHz/16bitもその後のアップサンプリング技術等の導入でかなり改善されたというものの、上限を20kHzでビタッと切ってしまったことによる弊害が30年も続いてきた。

・それがようやく今になって
96kHz/24bit、192kHz/24bitでの録音とネット配信、PCオーディオによって解決しつつあるなぁ。。。と、つくづく感じる。

・のだが、実はそれらハイビット・ハイサンプリング音源で得られる音が案外今回のNo−215EQで得られる音に近い。

・のだから、まぁ、レコード再生における革命と言ってもいいのかな。

・例えば右のようなLPを聴くと音が空間に三次元に乱舞して、角田氏ではないが“これは本当にLP再生なのかと耳を疑うほど”。

・というわけで、K式の人には是非製作されることをお勧めする。

・イコライザーへのAOC導入とカップリングコンデンサーレス化がホップ、ステップで、今回がジャンプである。




(2011年8月14日)








(その後の4:No−215EQになるの続きの続き)



・No−215EQは大変良い。

No−215EQで聴くアナログレコード再生は素晴らしく、同じK式でも従前のイコライザーでは最早聴く気になれない。すなわち今回は本当に後には戻れない。はっきり言って、長年K式をやってきて、先生が毎回おっしゃるこのフレーズを本当にそうだと思ったのは今回が初めてである。

・よって、カートリッジはDL−103以外にないと悟っていない凡夫の私としては
、手元のDL−103RとDL−301Uも2SK97シェル内蔵型に改造してしまった。

・これらも当然今回のNo−215EQで聴きたい。

・何故かDL−103Rにはススム抵抗が付いている。

・のは、こういう余計なことをするとありがたくも変な現象に遭遇するもので、DL−103とDL−301Uでは回路図の通りで全く問題ないのに、DL103Rの場合だけ回路図のとおりでは何故か発振を起こすようでIdが安定せず変な電流値になる。そのためやむを得ず2SK97のゲートに下図のように110Ωを挿入したのである。これで何もなかったかのように安定する。たまたま私の持っていた個体の組み合わせの場合のみの現象かもしれないが、もし同じような現象に遭われた場合はこのようにすると解決するかもしれない。ただ、この箇所は非常に高インピーダンスなので、ススム抵抗のような大きな抵抗はアンテナを広げているようなもので、このままでは場合によってハムノイズ等を拾いやすい。ので、いずれ小さなチップ抵抗にでも交換しなければなるまい。

・で、問題は2SK97である。というのは、一台のNo−215EQで複数のVIコンバーター付きカートリッジを聴くためには、それらに用いる2SK97はIdssがほぼ同じものにしなければならないからだ。勿論、オリジナルのようにISCを可変式としてカートリッジ毎に毎回調整して使用することを厭わないのであればそんな必要は無いのだが、ずぼらなわたくしとしては一々調整するのはイヤなので、ほぼIdssの揃った2SK97を手持ちの中から選抜した。その過程でこの我がNo−215EQの初段差動用2SK97も交換することになってしまった。

・結果がこの回路図のとおりなのだが、それでもIdssにはそれなりの差がある。ので、やはり毎回出力オフセットの調整をしないとだめかなぁ。。。と思ったのだが、やってみるとこの程度のIdssの差はSAOCが全て呑み込んでくれてオフセットはどの場合でも0Vに押さえてくれるのであった。ありがたや、ありがたや、SAOC様。
・いやはや、レコードにカートリッジの針を落とした瞬間に驚く。レコード盤面に耳が直結したかのような聞こえ方と言うか、針が拾い上げる情報量が圧倒的だ。

・で、愚考するに、
今回のNo−215EQと従前のK式EQの違い、すなわちこの情報量の違いの原因は、カートリッジからEQアンプの
入力までの信号伝達レベルの違いであろう。

・先生は、これを9.8倍と、またまた凡人の私には良く理解できない解説をされているのだが、カートリッジからアンプ入力に至る経
路における信号伝達レベルを凡人なりに考えてみると、まずNo−215EQの場合は、カートリッジに内蔵した2SK97のgmを先生の実測による17.7mSとして、DL−103の発電電圧を0.3mVとした場合、その大きさは17.7mS×0.3mV=5.31uAである。これは先生のおっしゃるとおりだ。

・で、従前の場合はどうか。なのだが、これを0.3mVの電圧伝送だ。と言っても何の意味もない。電圧というのは電圧そのもので伝送
されるものではなく、オームの法則のとおりV=I×Rで抵抗に電流が流れて初めて電圧になるのである。信号はこの間しっかりと電流で伝送されているのだ。したがって、従前の場合の信号伝達レベルは、同様にDL−103の発電電圧を0.3mVとした場合、0.3mV/560kΩ=0.00054uA。とするのが正しい比較である。すなわち、No−215EQの場合のなんと1万分の1なのである。

・この1万倍も大きい信号伝達レベルがNo−215EQの情報量をもたらし、音の違いの原因となっている。No−215EQは従来機より80dBも音が良いのである。んっ、違うか。(爆)

・さて、三つのカートリッジの奏でる音の差だが、駄耳の私があ〜やこ〜や言ってもしょうがないが、

・DL−103も良いが案外DL−301Uも良いカートリッジである。DL−103より設計が新しく、また針先が異なることもあって明らかに広帯域で情報量も勝る。また巷で言われるほどポップス系に振ったようなドンシャリでもなく極めて真っ当なバランスの音である。が、エナジー感では丸針のDL−103には僅かに負ける。帯域を欲張らず中域にエネルギーを集めて太書きに端正に音を出してくるのがDL−103で、これが実に実体感をそれらしくする。し、帯域は十分でかまぼこではない。片やDL−103RはDL−103オリジナルの太書きに端正に音を出してくる部分はそれなりに残したままに、DL−301Uのような高域の伸び感や爽やかさが感じられ、なかなかに上手いバランスでこれもまた魅力的だ。

・と、No−215EQで聴くとカートリッジの特徴も一聴瞭然。
が、No−215EQで聴くこれらのカートリッジの音の差は極めて些細なことで、どれで聴いても眼前に現れる演奏家の演奏そのものに心奪われ、深く楽しむだけなのである。




(2011年8月17日)








(その後の5:No−215EQになるの続きの続きの続き)




・No−215EQは大変良い。

・のは良いのだが、既存の旧型K式イコライザー達をどうすべきか。

・まぁ、全てNo−215EQ形式に作り直してしまえばそれまでなのだが、そうする前にちっとはNo−215EQに近づけられないものか。と、多少努力してみる。

・No−215EQと
従前のK式EQの音の違いの所以のものが、本当にカートリッジからEQアンプの入力までの信号伝達レベルの違いによるのであればことは簡単だ

・旧式EQでDL−103の発電信号をシャント抵抗560kΩではなく、もっと小さいインピーダンスで受ければ良いからである例えば560Ωで受ければ信号伝達のレベルは同様にして0.3mV/560Ω=0.54uAと1,000倍に大きくなり、No−215EQの場合の10分の1程度のレベルにまでなる。

・これなら同等とまでは行かないものの十分期待できるだろう。その程度の負荷をドライブする能力ならこれらのMCカートリッジには十分にあるし。

が、K式教義では、イコライザー初段のFET入力のシャント抵抗をこのような抵抗値の低いものとした場合、大事な発電信号がシャント抵抗に無駄に消費され、アンプ入力(初段FET)に十分伝わらず、結果音が悪い。ということになっている。

・ので、EQアンプの方を反転動作にする。そうすればカートリッジの発電信号は抵抗に消費されることなくNo−215EQの場合と同様
全部アンプに伝達される。すなわち、その発電電流は入力からRIAAイコライザー素子を通ってアンプ出力点にまで達する。No−215EQの場合と同じ状況になる。

・が、この場合、カートリッジの出力は出力インピーダンスの低い要すれば電圧源なので、カートリッジからアンプ入り口までの伝達経路に存在する接点の非直線性抵抗成分等の影響をもろに受ける。アンプ側の入力インピーダンスが低いほどにその影響は大きくなる。シャント抵抗に560kΩの抵抗を使う真の理由はここにあると思われるが、本当にそうか、そしてその影響がどれほどか、がこれで分かる。耳が良ければ。。。(爆)

・我がNo−210EQをNo−215EQに変身させる前に反転入力に変えてみたのはこういう考えからだったのだが、9月号の“本機の音”の余りの強烈さに急遽No−215EQに変身させてしまったので、その結果の音をNo−215EQと比較することが出来ないことになってしまったのである。

・なので、それを我がNo−128?EQで試す。
・もちろん、回路はこう。

・一応LTSpiceでその動作を観ておく。
・結果は、非反転動作の場合と多少の違いが見られるが、本質的な部分には何も違いはない。

・理想NFイコライザー状態もそのままだが、これも最早過去のことなのだろうなぁ。近頃はコメントすらされなくなった?(爆)
・で、結論。

・悪くない。少なくとも従前の非反転動作の時のNo−128?EQより悪くなったという感じはしない。上で、No−210を反転動作に変更した際に「なんだがカートリッジが電流を流せるようになって生き返ったように伸び伸びしている?とても良さ気」と書いたが、やはりこの反転型No−128?でもそんな感じを受ける。No−215がなければ、これでもかなり満足出来るように思える。

・が、残念ながら、No−215EQに比べると音そのものや音場がどうしても平板に感じられる。微妙な前後感が不明確になって空間が透明に突き抜けてくれないといった感じだ。No−215EQと比べてしまうとやはり微妙に情報を失っている結果ではないかと感じざるを得ないのだ。

・No−215EQでは音そのものがそれぞれ立体的で三次元。なので音場もリアルな三次元。微妙な位相情報等も全く失わないが故の結果ではないかと思えるのである。

・カットリッジ直近でその電圧出力を電流出力に変換することでアンプ入り口までの伝達経路に存在する接点の非直線性抵抗成分等の影響を受けない、そしてこれを低インピーダンスで受けるため容量成分の影響も受けない、またその間の信号伝達レベルも大きいのでノイズの影響も受けない、などの相乗効果で、カートリッジが拾い上げたレコード盤面の音楽情報が寸分漏らさずイコライザーアンプに伝わるのだろう。音が良くて当然。

さて、我がNo−128?。どうしようかな。(^^;




(2011年8月20日)